突然少年

恥ずかしながら僕は突然少年を見たことがなかったのでせめて彼らの音楽をできるだけ長い時間聴いてから紹介文を書こう、と思っていた。というわけで突然少年がMIKROCK'22出演者紹介の最後のアーティストになります。突然少年の名前を知ったのは音楽よりも先に「ギタリストがドタキャンしてメンバー全員で声明を出した」とかそういう情報だった気がする。だいたいそういうお知らせって結論がもうあって、たくさんの感情を押し殺して結果と今後どうするかを述べる、というものが多いと思うんですがその声明には「一緒に音楽をやることを諦めたくない」みたいな事を書いていた気がする。突然少年の曲を聴いていると激情はあれど都合のいい呪いはまったく無いように思えた。自分のために誰かのもとから去り、それでもその相手には輝きを求め続けるような気持ちを僕は身勝手な呪いだと思っている。だって関係ない立場からならどうとでも言えるよね。でも大人になるにつれて、対象が輝こうが落ちぶれようが注ぎ続けることができるものが愛だとして、何かを愛するということがどんなに難しい事か嫌でもわかってくる。なのに突然少年の曲や活動の仕方やメンバーへの声明からは誰をも呪わない愛があると思った。少年の頃は僕もそうだったはず、だから突然少年なのか。なんて思ったりもした。絶対に嘘は歌えなさそうなボーカルの声、歯止めのきかない感情がそのままアンプでデカくなったようなバンドの音、とにかく走り出したバンドに運命のほうがついていくかのような裸の奇跡。一緒にバンドやろうぜ、がこの世のどんな口説き文句よりも危険でロマンチックで愛に満ちた言葉なのかもしれない。